予想どおり、ショパンコンクールの本選に、注目していた4人が進出。3次予選の演奏も聴きましたが、やはり16歳のTIANYAO LYUさんが傑出していて、その次にKEVIN CHENさんと進藤実優さんが並び、そのあとに桑原志織さんが続いている印象です。そのほか、ERIC LUさんやVINCENT ONGさんの演奏もすばらしく、本選でもこれまでと同様のパフォーマンスが発揮されれば、この6人が上位争いを繰り広げるのではないでしょうか。
ただ、演奏の質をどう評価するかは難しい問題です。審査員の受け取り方ひとつで順位というものは簡単に変わってきますから、最後まで本当にわかりません。それでも、ピアノ演奏を構成する要素を詳しく検討すれば、ある程度客観的な評価は可能だと僕は考えています。結論から言えば、演奏の質を正しく見極めるには、ピアノ演奏を構成する「音楽性」「演奏技術」の2大要素を詳しく分析する必要があるでしょう。
まず、芸術が何かの表現である以上、表現されるもの自体である「本質価値」が芸術の核にあるはずです。ただしピアノ音楽の場合、この本質価値の大部分を作曲者の創造(楽譜)が担っているため、基本的にピアニストは、それを音楽的により美しく演出する「音楽性」を探求するほかありません。この音楽性の探求とは、いわば楽譜に書かれていない音楽的な細部を詰めて、少しでも聴き手に効果的にその価値が伝わるよう努める作業でしょう。大まかにいえば、ひとつひとつの音の強弱や緩急、アクセントなどを効果的に調整していくわけですが、この作業がどこまで追求されているかに注目することで、音楽性の質をより適切に評価できます。
ただし、具体的な表現手法を知らなければ、この音楽性の見極めは容易ではありません。たとえば僕の場合、エコールノルマル音楽院の中沖玲子先生からは、「和音の最も高い音(右手の小指)と最も低い音(左手の小指)だけ強調して、そのほかの音を抜く」手法を教わりましたし、THOMAS Patricia先生からは、「高速パッセージの中に潜んだメロディラインをレガートで静かに歌わせる」手法を教わりましたが、こうした指導を受けるまでは、この種の音楽的なつくり込みに注目していなかったものです。ですから、こうした表現の引き出しを豊富に研究しておけば、細部に光る音楽性の質を、高い精度で評価できるでしょう。
そして、こうした音楽性を実際の音として最適に実現するために必要になるのが「演奏技術」です。演奏技術は単にひとつの要素として評価されがちですが、大きく分けて、「高速で弾く技術」と、「緻密に弾く技術」の2つがあることに注意しなければなりません。たとえば完璧な超絶技巧の持ち主と言われがちなシフラは、目にもとまらぬ速さで弾く技術は突出しているものの、音の粒をそろえて緻密に弾く技術はそこまで高くありません。また、ツイマーマンは音の繊細な強弱まで制御して弾く技術はすぐれていますが、最高速度はかなり限られています。いずれにしても、高速で弾かなければ効果的に表現できない音楽性もあれば、緻密に弾かなければ曇ってしまう音楽性もあるわけですから、それぞれ個別に評価する必要があるでしょう。そしてその2つの技術を詳しく検討することで、音楽性の真価もより正確に見えてきます。
こうした細かい要素を検討した結果、個人的に光って見えたのが、さきの6人なのです。中でもやっぱり、あらゆる要素で突き抜けているのが、TIANYAO LYUさんだと思いました。若い天才少女の才能に嫉妬した審査員が荒ぶらない限り、彼女の優勝は固いと信じています。